2009年11月23日
初診の際に、「私の診断は、何でしょうか?」と、尋ねられることがあります。そのたびに、私は、あまり歯切れのよい回答ができません。結局、患者さんには、心もとない思いをさせてしまうことになり、申し訳なく思っています。今日は、ささやかな弁明をしたいと思います。長文ですが、お付き合いいただければ、幸いです。
医学では、診断は勿論大切です。たとえば、胃の病気を例にとると、胃がんなのか、胃潰瘍なのか、その差は歴然としています。治療法も、その後の経過も、診断によって変わってくるわけです。胃がんの薬を、胃潰瘍に使うことはできませんし、逆もしかりです。
心療内科・精神科領域でも、診断は大切です。教科書の診断基準の項目をみると、たとえば 「うつ病」と「不安障害」は、はっきり区別できるものとして記述されています。しかし、実際の診療場面では、これは「不安障害」で、ここから先が「うつ病」という境界線は、はっきりしません。きわめて典型的な場合は、区別できると思うのですが、グレイゾーンの領域が、とても広いと思います。薬物療法も、同じ傾向があります。最近の抗うつ薬には、うつ病に加え、不安障害にも保険適応がありますし、抗不安薬を、うつ病に使用することも一般的です。
最近の経験ですが、初診の際には「不安障害」と診断したのですが、診察を重ねているうちに「うつ病」に、変更しました。いい加減だと思われるかもしれませんね。しかし、初診でいきなり確定診断をつけてしまい、他の病気の可能性を排除することにも弊害があるはずです。診断は柔軟に考えながら、診療場面で再検討をしていく必要があります。
中井久夫という精神医学者は次のように書いています。診断は、「治療のために立てる仮説」であり、患者との相互関係の中で絶えず微調整され、時には大きく変わり、最後まで仮説の性格を失わない、と。虹の色は七色だ、とはいえないように、精神疾患も連続していて、移行することもあるわけです。
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